現代でも愛される古典の歌の美しさ|文学部 日本学科 田島智子先生インタビュー

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古典文学を学ぶ「講読Ⅲ」の授業では、紫式部の「源氏物語」をテーマとして毎年異なる女性を取り上げて研究発表をしています。今回は日本学科の田島智子先生に、テレビドラマでも話題の源氏物語を中心に、平安和歌文学の魅力や授業を通じて届けたい想いについて伺いました。

自分の言葉で語れる力をつける

授業としては、作品の内容を読み取り、他者に説明できるようにする「日本文学史Ⅱ」、物語の成立の仕方や作者の紹介を中心に学ぶ「日本文学論Ⅱ」、そして学生たちによる研究発表を行う「講読Ⅲ(古典文学)」などを受け持っています。日本学科では、文字で表現されたものを読み取る力だけでなく、それを自分のなかに吸収した上で誰かに「伝える力」や「関わる力」も重要視しているため、ミニ授業や発表の場を設けています。日本文学論Ⅱでは、百人一首の中から気に入った歌を各学生に選んでもらい、5分間のミニ授業を行ってもらっています。国語の先生を志望して選択してくれる学生も多いですし、どの部分が魅力的で面白いのかを自分の言葉で他者に伝えられるようになることを目的としていますね。

源氏物語に見る「女性の生き方」

講読Ⅲでは源氏物語を紐解いていきますが、毎年異なる女性を取り上げて分析し、各自がテーマを決めて発表します。心理分析や人物論に関するテーマは人気があります。天候の不穏な様子と登場人物の葛藤とリンクしているなど、「風景描写と心理描写が連動している」という珍しい着眼点をテーマにする学生もいて興味深かったですね。

テレビドラマにもなっていて注目を集めている源氏物語は、光源氏を主人公とする物語ですが、私自身は、作者の紫式部が一番書きたかったのは「女性の生き方」ではないかと思っています。さまざまなパターンの生き方の女性をこれでもかと描き尽くしたと思います。とくに紫上は、光源氏の最愛の妻でありながら、社会的には非常に不安定であり弱い立場です。自分の身一つで戦っている女性であり、婚礼の夜、光源氏を女三宮の元へ送り出すときにも、苦しくて眠れない胸の内を悟られないように寝返りも打たず夜を明かす、という描写があります。たった一人で、プライトを持ちながら人生の危機に立ち向かう紫上の勇気には心を打たれるものがありますね。

女三宮とは

物語の後半に登場する重要な人物で、晩年の光源氏の正妻。帝の第三皇女であり、非常に高貴な血筋を持っている。女三宮が正妻として迎え入れられたため、紫上は事実上の正妻だった立場から外されてしまう。

美しい表現は時代を超えても共感できる

日本文学論Ⅱで取り上げる百人一首では、「久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ」という歌が人気ですね。桜の花びらが散っていくことを惜しむ歌でありながら、うららかな陽光の中で舞い散る桜の花びらを浴びている喜びも感じられますし、散る桜の花とともに過ぎていく時間も描いています。歌の美しい風景や生きていく時間の流れのようなものは、今の学生にも伝わるものがあるなと思っています。

私自身は競技かるたが盛んな福井県の出身で、小さなときからかるたの古語には慣れ親しんでいました。詳しい意味はわからなくても雰囲気やリズムを味わいました。また、中学校のときに枕草子の「月のいと明きに、川を渡れば、牛の歩むままに、水晶などのわれたるやうに水の散りたるこそ、をかしけれ」という文章を見て、水のきらめきをこんなにうまく表現できるってすごい、と感動したことを覚えています。

学びの魅力は人を通じてつながっていく

授業を通じて伝えたいことは、一人ひとりの学生に「これを追究したい」「深く学びたい」ということを見つけて欲しいということですね。私にとってはそれが平安文学でしたが、対象は何でも構いません。日本学科は、日本文学をはじめ、現代文学やサブカルチャー、和食文化、観光までさまざまな学びの分野を揃えているので、何か一つは興味のあるものや面白いと思えるものに出会えるんじゃないかと思っています。基礎的な学びをした上で自らが追究し、「日本学科に入って良かったな」と思ってくれる学生が一人でも増えてくれたらと思います。また、自分の言葉で誰かに語ることで、その魅力がさらに輪を広げて伝わっていけば嬉しいですね。

WRITER
田島 智子 / たじま ともこ

四天王寺大学 文学部 日本学科 教授
担当講義:古典、日本文学論(古典)、日本語文法(古典)、日本文学史(古典)など
研究分野:平安和歌文学

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四天王寺大学:文学部 日本学科
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