Shitennoji University

令和3年度 科学研究費助成事業(科研費)令和3年度 採択課題 研究概要④

在宅で認知症者を介護する高齢者の睡眠の実態と睡眠質向上のための教育ケアプログラム

研究代表者氏名 坂口 京子
(サカグチ キョウコ)
所属 看護学部
看護学科
職位 准教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 18K10525

研究の目的

現在、わが国の高齢化率は28.1%(2018年9月)となり、超高齢社会に伴って認知症者も増加している。認知症者の社会施策としては、予防・維持改善が基本におかれ、治療の場は、病院や施設から在宅での療養生活へと移行しつつある。認知症は慢性的に進行し、生活療法が重要であるため、在宅における家族の見守りや介護が重要な位置を占めている。しかしながら日本の世帯状況は、核家族化、高齢者夫婦世帯が多く、老々介護状況にある。高齢者でありながら、在宅で配偶者の認知症者を支える家族は重要な役割を担うことになるが、高齢介護者の睡眠問題については、あまり議論がされておらず、先行研究も僅かである。そこで、本研究は、認知症者を在宅で介護を行っている高齢介護者の睡眠に焦点を当て、睡眠の実態の把握と、睡眠改善に向けた教育プログラムを構築・実施し、高齢介護者の負担を減らす目的である。本研究者の先行研究では、高齢介護者の約8割に睡眠障害が生じていることが明らかにされ、睡眠障害の誘因が認知症者の介護そのものによるものではなく複雑に要因が絡み合っていることも判明した。本研究はさらに、研究の幅を広げ、睡眠実態と要因の解明、教育ケアプログラムの有用性について明らかにする。 第1段階研究:認知症を介護する高齢介護者の睡眠に関する調査研究を実施。第2段階研究:高齢介護者の睡眠の質改善に向けた睡眠教室(ケアプログラム)の構築と実施及び有用性について。以上が研究目的である。

期待される研究成果

本研究の学術的・社会的な成果として、認知症者の睡眠の研究は多く発表されているが、高齢社会でありながら、高齢介護者の睡眠の実態は明らかにされていない。一般には高齢者は、加齢による睡眠構造の変化から約3割が睡眠障害を持っていると言われている。睡眠障害は転倒の危険、慢性疾患の悪化、精神疾患の危険、死亡率の増加など、高齢者にとっては睡眠の質を高めることが重要な課題の一つと言える。高齢者でありながら、生活困難である認知症者を介護する場合、さらに睡眠障害のリスクは高い。①認知症を介護する高齢者の睡眠についてさらに研究が進むと、睡眠医学の発展に関与する。②睡眠障害の実態の把握は、家族看護の問題点や重要性を再認識することができる。③また睡眠改善に向けた教育プログラムの構築・実施は、高齢介護者の声に耳を傾けることなり、高齢介護者の理解に繋がる。④教育プログラムの実施・評価・発展により、高齢介護者の睡眠の質を高めることとなり、健康維持、精神的安静をもたらし、高齢介護者のQOLや介護力の維持向上に繋がる。認知症者は介護者からの受ける影響は大きいため、介護者の睡眠改善は、しいては認知症者自身のQOL改善が図れるものと思われる。

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月経前不快症状を緩和する健康習慣形成プログラムの構築

研究代表者氏名 松本 珠希
(マツモト タマキ)
所属 教育学部
教育学科
職位 教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 18K11086

研究の目的

月経前症候群(PMS)は、月経前の黄体期に繰り返し出現する心身不快症状の集積である。PMSは女性なら誰もが経験する症状であり、生命に直接関わるような重大なものではないため、軽視されてきた感もある。しかし、PMSが思春期から始まり、女性の健康と社会生活に少なからぬ影響を及ぼすことも考慮すると、女性自身が心身の変化について認識するとともに症状をうまくコントロールし、Quality of Lifeの維持・向上が図れるようなセルフケア行動をとることが必要と考えられる。本研究では、軽症から重症までPMS症状レベルが異なる有経女性を対象に、PMSを知る第一歩となるセルフモニタリングにより、「月経周期に伴う心と体のリズム」を知り、継続可能な健康生活習慣を実践することにより、PMS症状が緩和するのか否かについて検討する。PMSセルフモニタリングとして、紙媒体による症状記録用紙の使用に加え、PMSスマートフォンアプリの開発と導入を試みる。また、セルフモニタリングを含め、健康生活習慣形成に向けての小さな変化を続けるというセルフケア行動がPMS症状の緩和に繋がる場合、その背景には、生命神経系ともよばれ、心と体をつなぐルートである自律神経系が関与するのかについても探究する。

期待される研究成果

PMSは、生物学的な要因だけでなく、その女性の性格傾向や身体症状に発展しやすい心理反応、偏った食生活や運動不足、喫煙などの不適切な生活習慣、家庭環境や職場におけるストレスなど、女性を取りまく社会環境の変化も症状の発現と憎悪に影響する。その意味で、PMSは「現代女性の新たな生活習慣病」といえるのかもしれない。PMSを発症する性成熟期女性の大半が利用しているスマートフォンの導入を試みる本研究は、手軽に日々のバイオリズムの変化を認識し、目に見えない心身のストレスを自律神経活動動態で視覚化できることから、PMSに対する理解を深め、セルフケアへの関心と実践力を高めることができる可能性を有している。加えて、今まさに、日本が目指す「女性の活躍」に相応しい新たなヘルスプロモーション研究を担う役目を果たすことができると確信している。

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ポスト・リスクモデルの犯罪者処遇に関する比較歴史犯罪学的研究

研究代表者氏名 平井 秀幸
(ヒライ ヒデユキ)
所属 人文社会学部
社会学科
職位 准教授
研究種目 若手研究(B) 研究課題番号 17K18261

研究の目的

本研究は、近年の先端的研究において犯罪者処遇の新たなグローバル・パラダイムとして徐々に注目されつつあるポスト・リスクモデルの犯罪者処遇に関して、薬物事犯者処遇を具体的事例として犯罪学・矯正教育社会学の観点から経験的・理論的・政策科学的に考察することを目的とする。

期待される研究成果

本研究はポスト・リスクモデルの犯罪者処遇を2000年代以降の犯罪学・矯正教育社会学の重要理論概念のひとつである「新自由主義(neoliberalism)」と結びつけて理論化しようとする野心を有している。新自由主義は従来、厳罰化や民営化など犯罪者処遇の縮小を正当化する政治的合理性であり、新たに登場した認知行動療法や犯罪当事者活動は犯罪者を社会的に再包摂する“新自由主義に抗するオルタナティヴ”だと好意的に評価されることが多かった。しかし、リスク的処遇は適切なリスク回避ができない非再帰的主体を、非リスク的処遇は社会参加をめざさない非市民的主体を、それぞれ排除する新自由主義的処遇となる恐れがある。心理療法から当事者活動まで、実に多様な実践から成るポスト・リスクモデルの犯罪者処遇を新自由主義化する現代社会・刑事司法のなかに位置づけることで、本研究は犯罪学や矯正教育社会学に留まらない広い学術的インパクトを有するだろう。

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言語適性は語彙学習ストラテジーにおいてどのような役割を果たすのか

研究代表者氏名 麻生 迪子
(アソウ ミチコ)
所属 人文社会学部
日本学科
職位 講師
研究種目 若手研究 研究課題番号 18K12436

研究の目的

本研究は,日本語学習者の情報獲得能力の向上を目指し,未知語意味理解ストラテジーの指導法の開発を試みる。どのような学習者が,どのような未知語意味理解ストラテジーの利用を効果的に行えるのかを言語適性の観点から検討し,語彙学習の負担 を軽減する指導法の開発を行う。具体的な研究課題は,3つである。

  • (1)言語適性は,未知語意味理解ストラテジー能力と関連があるのか。
  • (2)言語適性は,未知語意味理解ストラテジー能力を予測するか。
  • (3)未知語意味理解能力の観点から学習者は,どのような適性プロフィールの観点 に分類できるか。

期待される研究成果

本研究の成果により,学習者の適性にあった語彙指導方法の開発を行うことができる。これは,日本語教育における語彙指導時間の短縮をもたらす。また,従来,言語ストラテジーは,個人差の外的要因として単体で論じられることが多かったが,言語適性という内的要因という観点で論じることから,個人差という概念を複合的にとらえ,第二言語習得の本質に迫ることができる。

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近代大阪の在野儒学者の研究―その経学と社会政治活動―

研究代表者氏名 矢羽野 隆男
(ヤハノ タカオ)
所属 人文社会学部
日本学科
職位 教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 15K02093

研究の目的

従来〈儒学における西洋学の受容〉の研究対象となるのは、儒学を素養として西洋学を修めた「洋学者」が中心で、また明治期の儒学者を取り上げる研究も、多くは帝国大学など近代教育の中で活動した学者であった。在野の儒学者は対象外に置かれ、彼らが儒学を基礎に西洋学をいかに受容し、どのように活動したかは十分な研究がなされてこなかった。

本研究は、近代大阪を代表する在野の儒学者で、中央にも積極的に働きかけた泊園書院の藤澤南岳、梅清処塾の山本梅崖らを対象に、日本漢学と日中交流史の研究者の共同研究によって、その経学(儒教の経典解釈学)における西洋学の受容、および清末知識人との交流、時事的発言など、経学および社会政治上の活動を多角的に解明してその思想史的意義を考察するものである。

共同研究の分担は下記のとおりである。

  • A 経学および西洋学受容に関する思想史的考察:矢羽野隆男(研究代表者)
  • B 社会政治上の活動およびその思想史的考察:呂順長(研究分担者)

期待される研究成果

  • 1.これまで研究対象外であった近代大阪の在野の儒学者を対象とすることで、近代思想史の空白を埋める点に意義がある。彼らは洋学者や官学の学者でないために見落とされた存在であったが、本研究により彼らを近代思想史上に正当に位置づけることができる。
  • 2.近代の儒学者の経学を正面から取り上げる点に新たな研究領域を拓く特色がある。近代思想史における経学研究は極めて手薄で、南岳・梅崖の著作も手付かずである。本研究により、大阪の儒学の経学研究から発展して〈近代儒学における経学〉の領域へ広がる可能性をもつ。
  • 3.国際的な人的交流を示す最新資料の活用により、大阪の儒学者の活動を東アジアを視野に入れた近代思想史において捉える点に先進的かつ普遍的な特色がある。梅崖ら大阪の儒学者と清末知識人・中国人日本留学生との交流記録、政府要路への意見書など最新資料の発掘分析により、近代の日本・中国の動きと連動する活動の思想史的意義の探究が可能となる。

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コモンズという場所の性格に根差した地域管理政策

研究代表者氏名 五十川 飛暁
(イソガワ タカアキ)
所属 人文社会学部
社会学科
職位 講師
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 16K04127

研究の目的

近年、地域社会のコモンズ空間は、従来のオーバーユースだけでないアンダーユースの問題も加わり、その管理の見直し論が盛んである。そして、その特徴であった控除性と排除性を避けつつ、どう多様なガバナンスを形成していくかが課題となっている。ただ、そうやって多様性が模索されるガバナンス空間は、他方でその意味内容としてはたいへん画一化に向かっているように思われる。とするなら、それとは異なる管理論を考えておくことにも価値があるに違いない。本研究では、コモンズ空間が歴史的に備えてきた重層性や可変性という特徴にあらためて注目し、その特徴を前提につきあってきた人びとのつきあい方から、地域社会の空間管理にあらたな選択肢を提示することを目的としている。

期待される研究成果

本研究の目的を達成するため、いくつかの事例地を選定しながら、フィールドワークを実施していく。地域コミュニティ内には、従来コモンズをめぐる議論が注目してきた共有地やその共有をめぐる仕組みだけでなく、私有地や公有地といったさまざまな色合いをもつ空間が存在する。今回の研究では、コモンズ空間としてとくに共有地に限定することなく、コモンズ性があらわれる場所という観点から選定をおこなっていく。また、実際の調査の際には、空間そのものというよりも、その空間とかかわってきた地域社会のほうにポイントをおき、現場の地域生活を把握すること、および、そこからの検討を重視していく。そこで得られるであろう、人びとの生活の論理からは、学問的にはコモンズをめぐる議論を批判的に発展させることができるだろうし、政策論的にも、地域空間の管理のあり方について模索している各地の人びとが、自分たちの今後を考える際の判断材料を提供できるのではないかと想定している。

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妊娠早期からの主体的・継続的な出産準備教育による父親役割形成への効果

研究代表者氏名 宮本 雅子
(ミヤモト マサコ)
所属 看護学部
看護学科
職位 准教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 17K12327

研究の目的

職業をもちながら出産育児を行う女性が増え,長期にわたる子育て期を夫(パートナー)の協力を必要とする時代を迎えている。夫の育児参加は,出産時の立会いや,産前産後の教育的な関わりを通して徐々に増加し,「イクメン」は社会現象となっている。先行研究では,父親の妊娠期の胎児への関心や育児行動により父親役割の認識や自尊心が高まる一方で,男性の付加的な関わりや産後の不安,うつなどの心理的な変化も問題とされている。本研究では,夫が妊婦と同様に主体的に妊娠・出産・育児に関わることが可能な妊娠初期からの個別的な教育プログラムを開発すること,およびその評価を目的とする。出産や育児を夫婦,家族のニードに応じて父親の参加を容易なものとし,夫婦ともに親役割の認識や子どもへの愛着を高めるケアについて探索する。

期待される研究成果

1.夫の親性と心理・ケアニード
妊娠期の夫は不安な状態であり,知識普及やどのような参加(出産準備や妊婦健診など妻との関わり)が望まれるのか,確信をもって出産育児に関わりたいニードがある。また,父親の伝統的親役割観や仕事の質や量,妊娠出産などの知識不足が要因の一つとして父親役割意識や親性,自己効力感を低下させる可能性がある。
2.教育的介入(出産準備教育)
夫の個別的なニードに応じた教育,および父親のための知識普及により,親性や父親役割意識,分娩期から育児期に経過に応じた参加度,自己効力感が高まり,不安やうつが低下する。

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地域での子ども包括支援に向けたセンター型支援の有効性の検証とあり方に関する研究

研究代表者氏名 吉田 祐一郎
(ヨシダ ユウイチロウ)
所属 教育学部
教育学科
職位 准教授
研究種目 若手研究(B) 研究課題番号 17K18260

研究の目的

本研究では、子どもの生活課題に関する相談窓口および直接的なサービスの実施が期待される母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)および児童家庭支援センターにおける役割について、児童相談所および関係機関との連携体制および支援体制の実際について調査する。この検証を通して、子ども・子育て支援における地域におけるセンター型相談支援体制の機能検証による必要性の提起と、相談者視点に立った相談に有効なアクセシビリティのあり方について検討する。

期待される研究成果

両センターでのこれまでの実践事例の整理および地域および関係機関との連携について捉えることから、センターの設置意義を明確にすることができる。あわせて児童虐待の対応に追われる児童相談所の実施体制についても、両センターが援助の一部を担う(役割分担する)ことにより、各々の機関の専門性を用いた援助実施を可能とする視座を導き出すことができると予測される。

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災害時および避難時において安全・快適な衣生活を営むための衛生学的研究

研究代表者氏名 谷 明日香
(タニ アスカ)
所属 短期大学部
生活ナビゲーション学科
ライフデザイン専攻
職位 准教授
研究種目 若手研究 研究課題番号 20K13812

研究の目的

本研究の目的は、冬季を想定した避難所における衣類による防寒対策として、避難時の着衣に備蓄物資(衣服以外)である毛布やアルミエマージェンシーシートなどを重ね着をした場合の保温力や衣服内気候を物理実験と着用実験の両面から明らかにすることである。

災害は、時期や時間を選ばない。特に、冬季における災害は、外気温と体温の差が大きく、防寒対策が整わない場合、体温調節の未熟な乳幼児や体温調節機能が鈍化する高齢者にとって、命の危険につながりかねない。そこで、着の身着のまま避難してきた被災者が、避難所の備蓄物資で実践可能な防寒対策をした時の温熱的快適性を実験室的に検証する。さらに、実際に人が着用した時の温熱的着用性能を明らかにし、災害時における被服衛生学的に安全・快適な衣環境の提唱をめざす。

期待される研究成果

冬季災害を想定すると、人々が避難所へ着の身着のまま避難した場合、低温環境下で長時間を過ごすことになる。さらに、津波や豪雨などにより衣服が濡れていた場合は、体温の低下が助長され、低体温症を誘発する恐れがある。

本研究によって、備蓄物資のみで防寒対策した場合の保温力や衣服内気候が数値として明確になると、備蓄物資(公助)もしくは防災グッズ(自助)に衣類を含める重要性や何をどれくらい備える必要があるのかの指針を示すことができるとともに、災害関連死を未然に防ぐ一助になるものと期待される。

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