Shitennoji University

令和3年度 科学研究費助成事業(科研費)令和3年度 採択課題 研究概要③

ポストコロナのライブエンターテインメント:中小ミュージックベニューを事例に

研究代表者氏名 太田健二
(オオタ ケンジ)
所属 人文社会学部
社会学科
職位 准教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 21K12496

研究の目的

新型コロナウイルスの感染拡大までは、成長が見込めるインバウンド市場への期待は大きく、それをさらに拡大するために「ナイトタイムエコノミー」(夜間のエンターテインメント等の経済活動)の推進も図られてきた。しかし、コロナ禍において、移動の自由や人との接触、集まりが制限されるなか、ライブエンターテインメントそのもののは存続が危ぶまれる。

本研究課題は、クラスターを発生したことでスケープゴート化された、ライブエンターテインメントを下支えする中小のミュージックベニューを対象として、その現状と課題を明らかにする。

期待される研究成果

ローレンス・レッシグが注目した「法」「市場」「規範」「アーキテクチャ」という4つの規制のモードをもとに、フィールドワークや地理情報システム(GIS)を活用した分析を行い、自粛を強いる社会的な規範との折衝、ライブ配信といったDX的な取り組み、クラウドファンディングや助成金など、ポストコロナ社会におけるライブエンターテインメントの望ましいあり様と観光政策を提言していく。

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腎移植レシピエントの性の健康を支援するアプローチの検討

研究代表者氏名 吉川 有葵
(ヨシカワ ユキ)
所属 看護学部
看護学科
職位 准教授
研究種目 若手研究 研究課題番号 18K17590

研究の目的

腎移植で期待される効果の一つに性機能の改善がある。腎移植を受けた女性は月経の再開により妊孕率は回復するが、生児獲得率は一般女性より低い。一方、腎移植を受けた男性は、黄体ホルモン・卵胞刺激ホルモン・プロラクチンの改善、勃起機能、精子濃度と運動性が改善するが、自覚的性機能の改善は乏しい。男女ともに生殖機能や性生活における心理的負担は大きく、性機能を取り巻く心理的側面の改善には至っておらず、レシピエントは性の健康に問題を抱えている。本研究では腎移植レシピエントにおける性の健康、QOLの維持・向上につなげるため、腎移植レシピエントの性機能およびQOL、性機能を取り巻く要因との関連を明らかにし、腎移植レシピエントの性の健康を支援するアプローチモデルを開発する。

期待される研究成果

腎移植は透析療法と比較して妊孕率という身体的側面の改善は認められるが(岸川,1998)(永野,1998)、男女ともに生殖機能や性生活を取り巻く心理的側面の改善には至っておらず(Hamoud H,2009)(KDIGO GUIDELINES,2009)(岸川,1998)、レシピエントは性の健康に問題を抱えている可能性がある。移植医療の進歩により移植後に妊娠・出産するレシピエントは増加している。妊娠・出産に至るにはレシピエントの性機能の改善、健康的な性生活が必要不可欠だが、わが国の文化的背景から軽視される傾向にある。レシピエントは生涯、免疫抑制剤の内服を避けられず、不安や苦悩、葛藤、希望といった様々な心理状態にあり(Tong A,2015)、このような要因が性の健康に影響を及ぼしている可能性が考えられる。本研究で腎移植レシピエントの性機能およびQOL、性機能を取り巻く要因との関連を明らかにすることは、レシピエントが抱えている表面化していない問題の解決が期待でき、慢性疾患を抱えながら性の健康を維持し、安全な妊娠・出産につなげ得るものになると考える。

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がん関連倦怠感を緩和するマインドフルネスを用いた音楽療法プログラムの開発

研究代表者氏名 池内 香織
(イケウチ カオリ)
所属 看護学部
看護学科
職位 准教授
研究種目 若手研究 研究課題番号 19K19588

研究の目的

倦怠感は、がん患者が最も高頻度に経験する症状であり、QOLを阻害する症状である。しかしながら、倦怠感に対するケアはいまだ不十分であり、効果的な緩和方法は限られている。

そこで本研究では、がんサバイバーの倦怠感に対する新たなケア方法として、倦怠感に対する患者負担の少ないマインドフルネスを用いた音楽療法プログラムを開発し、その効果を検証することを目的とする。

期待される研究成果

倦怠感は、がん患者が最も多く経験する症状であり、生活への影響が大きくQOL (Quality of life)を阻害する症状である。がん患者が増加する中で、患者のQOL向上のためには倦怠感に対する効果的なケアの開発が課題である。
そこで、本研究では、

  • ①がん患者の倦怠感の特徴を明らかにすることができる。
  • ②がん患者の治療期に応じた、患者負担の少ない倦怠感ケアの開発ができる。
  • ③マインドフルネスを用いた音楽療法プログラムは最終的にはセルフケア可能な技法となり、倦怠感緩和のセルフケアを日常生活に取り入れることは患者のQOL の向上につながる。

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古典期ローマにおける相続と贈与

研究代表者氏名 後藤 弘州
(ゴトウ ヒロクニ)
所属 経営学部
経営学科
職位 講師
研究種目 若手研究 研究課題番号 20K13308

研究の目的

現代において相続と贈与の間に深い関係があることはよく知られており、そのことは古典期ローマにおいても変わらない。本研究は具体的な事例を検討することにより、古典期ローマにおける相続と贈与の関係について明らかにすることを目的とする。ここでいう贈与には死因贈与も含まれ、生前贈与と死因贈与の関係についても研究対象としている。

期待される研究成果

  • 古典期ローマの相続における死因贈与の働きについて明らかになる。
  • 古典期ローマにおける生前贈与と死因贈与の関係について明らかになる。
  • 古典期ローマにおける相続実務についての理解が深まる。

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子どもの自死や生きづらさに応答する教師の人間観および死生観の解明

研究代表者氏名 福若 眞人
(フクワカ マサト)
所属 教育学部
教育学科
職位 講師
研究種目 若手研究 研究課題番号 20K13990

研究の目的

日本では10代の自死の状況を受けて、自殺予防に焦点化した学習だけでなく、道徳教育や健康教育など、多様な実践が取り組まれてきた。しかし、そうした実践のなかで教師(大人)の果たす役割や、教師の人間観や死生観が子どもに与える影響について、十分に検討されているとは言えない。プログラムや技法が洗練されたとしても、教師の価値観の伝わり方によって、支援を必要とする子どもを疎外する可能性がある。教師の価値観を問い直すことが、自殺予防に必要とされる「信頼できる大人」として希死念慮などの生きづらさを抱える子どもに応答することに、新たな手がかりを提供すると考えられる。

以上のことを踏まえて、本研究は次の4つの課題に取り組むことを目的とする。

  • (1)自殺予防に取り組んできた教師に内在する人間観や死生観の特徴を抽出する。
  • (2)教師の用いる「ことば」について、哲学的・心理学的な知見を手がかりに、その特徴を明らかにする。
  • (3)「信頼できる大人」の資質や能力を、子どもの生きづらさの分析から導出する。
  • (4)自殺予防教育や生きづらさを抱える子どもへの応答についての教師(大人)のあり方を、教師教育の観点から検討する。

期待される研究成果

本研究のそれぞれの課題を通じて、次の3つの成果が期待される。

  • (1)教師向けの自殺予防プログラムにおいては、教師間の連携や自死の問題に取り組むための正しい知識理解や、問題解決能力などの向上が狙いとされてきたことに対し、本研究は教師の内面にある人間観や死生観にまで踏み込んだ分析を行う。哲学的な知見や心理学的な知見を手がかりとした検討を行うことで、自死や生きづらさに応答する関わり方の新たな観点を見出すことが期待される。
  • (2)自殺予防に取り組む教師へのインタビューを行うなかで、語り手が独自に意味づけた「ことば」の有無を確認し、教師の人間観や死生観の理解を問い直す手がかりを摸索する。それにより「信頼できる大人」に求められる資質や能力を検討するとともに、「ことば」に着目した自殺予防教育を支える新たな教師教育プログラムを構想することが可能となる。
  • (3)医学系・心理学系の学会、カウンセリング学会、生徒指導学会など、自死に関連する学会で検討されてきた学校教育における自殺予防の取り組みを、本研究では教師教育の観点から捉え直す。教師が自らの人間観や死生観に向き合うことが、教師としての資質・能力の向上につながる点について指摘されてこなかったが、本研究を通じて対症療法的だった自殺予防教育を、教師の自己研鑽に接続させることが可能となる。

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療養病床や介護療養病床で勤務する援助者のスキンテアの認識と対応からの予防策の構築

研究代表者氏名 松田 常美
(マツダ ツネミ)
所属 看護学部
看護学科
職位 講師
研究種目 若手研究 研究課題番号 21K17237

研究の目的

スキン‐テアは、通常の医療や療養環境の中で発生する皮膚の急性創傷であり、高齢者の脆弱な皮膚に発生のリスクが高い。日本は高齢社会が到来し、高齢者の療養の場所は急性期病院のみでなく、療養病床や介護療養病床を有する施設、在宅にまで広がりをみせ、高齢者の特徴である、脆弱な皮膚を守るケアの提供を行う必要性は高まると考えられる。高齢者の療養の場所では、看護の専門知識を持たない医療従事者(以下、援助者とする)が日常生活援助の一端を担うことになる。しかし、これらの場所に勤務する援助者のスキン‐テアの認識やスキン‐テア発生時の具体的な状況やその時の対応についての報告はみられない。

本研究では、療養病床や介護療養病床を有する施設で勤務する援助者の、スキン‐テアの認識やスキン‐テア発生時の具体的な状況やその時の対応について明らかにし、療養環境を提供する援助者に特有のスキン‐テアの予防策と看護師との連携方法を構築することを目的とする。

期待される研究成果

高齢者の皮膚に多く発生するスキン‐テアは、通常の医療や療養環境の中で発生するため、療養環境での予防がより重要になると考えられる。高齢社会における療養場所は一般病院だけにとどまらず、様々な場所が考えられ、これらの場所でのケア提供者の割合は看護の専門知識を持たない医療従事者(以下、援助者とする)が多くを占めると予想される。

近年、スキン‐テアの理解と予防、管理の標準化など、スキン‐テアに関する取り組みの強化が見られている。また、WOCNなどの専門家が配置されている施設においては、適切なケアに取り組み、その報告も徐々になされているが、実際の報告は医療従事者に焦点をあてたものであり、本研究で対象としている援助者のスキン‐テア予防策、看護師との連携方法の実態報告はない。

人口構造の変化に伴う高齢社会において、高齢者の多くの日常生活援助が援助者によって行われているという医療の場において、療養環境を提供する援助者に特有のスキン‐テアの予防策と看護師との連携方法を構築することは、高齢社会に対峙するケアの一つとして、多様化する医療従事者のケアの方向性を見出すことが期待されると考えられる。

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高齢者施設におけるウイルス感染リスク低減のための実証研究

研究代表者氏名 吉本 和樹
(ヨシモト カズキ)
所属 看護学部
看護学科
職位 助教
研究種目 若手研究 研究課題番号 21K17444

研究の目的

高齢者施設で生活する高齢者の発熱の原因の大半は感冒や気管支炎であることが申請者の先行研究で分かっている。感冒の原因としてウイルスによる感染によるものが考えられるがウイルスなどの感染対策の徹底具合については各施設間で温度差がみられる。この施設間での感染対策の差異については、高齢者施設での感冒や気管支炎などのウイルス感染リスク低減のための効果的な方法について検証が不十分であることも関連しているのではないかと考える。そこで、高齢者施設で手指消毒や生活する部屋などの除菌・消毒徹底が感冒や気管支炎などのウイルス対策による発熱発症リスク低減に効果があるのかについて実証することが本研究の目的である。

期待される研究成果

申請者は2019年から高齢者施設で生活する高齢者の発熱に関する調査を行っている。その調査結果から、高齢者施設で生活する高齢者の発熱の原因の大半は感冒や気管支炎であること、そしてウイルスなどの感染対策方法については施設間で異なっていることが分かった。本研究により、多くの高齢者が同じ空間で生活する環境下でのウイルス感染リスク低減に効果的な方法や対策が明らかになれば、高齢者の発熱による医師及び医療機関の受診機会を減らすと同時に施設で生活する高齢者の健康維持やADL維持にも貢献できると考える。

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中学校アクティブ・ラーニングにおける「対話的実践」の可能性と課題

研究代表者氏名 山田 綾
(ヤマダ アヤ)
所属 教育学部
教育学科
職位 教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 17K04589

研究の目的

本研究では、日本の中学校でアクティブ・ラーニングを導入する際に、主体的で深い学びが成立するために「対話的実践」が果たす役割と条件について明らかにすることを目的とする。そのために、以下に取り組む。

  • 1.フランスのフレネ中等教育の実験的プログラムを取り上げ、主体的で深い学びの具体的展開を「対話的実践」の視点から検討する。教授中心の教育から生徒主体の学習へと転換する際に、生徒の個別化学習と共有化における「対話的実践」の可能性と課題や教師の役割・教育課程・評価のあり方との関係について検討する。
  • 2.日本で戦後生活教育の理念に基づき全教科や総合学習で問題解決的学習過程に取り組む学校(愛知教育大学附属岡崎中学校など)と公立中学校の調査を行い「対話的実践」の可能性と課題を検討する。

期待される研究成果

本研究では、ダイナミックにカリキュラム開発とアクティブ・ラーニングに取り組む実験校の実践を「対話的実践」を核に分析し、アクティブ・ラーニングを具体的に実現していく視点を明らかにする。取り上げるのは、研究代表者・山田が昨年3月まで校長を務めた戦後生活教育の理念に基づき問題解決的学習過程で授業を展開してきた愛知教育大学附属岡崎中学校や同様の理念を掲げてきた中学校の実践と、実験的にフレネ教育をおこなうクラスを設置したフランスの中等教育プログラムである。

それゆえ、第1に、アクティブ・ラーニングがどのように対話的実践を成立させ、主体的で深い学びを実現できるのかについて検討できる。両実践を比較し、フレネ教育と生活教育の共通点と独自性から、「対話的実践」の役割や意義、課題と条件を明らかにすることができる。そこからアクティブ・ラーニングの可能性と課題を明らかにできる。

第2に、「対話的実践」を成立させるには、教科担任制である中等教育ではカリキュラム・マネジメントが重要になるが、対話的実践の成立とカリキュラム・マネジメントの関係を明らかにすることができる。 これらにより、2017年3月告示の学習指導要領おいて求められている「主体的で対話的で深い学び」とは何か、そしてどのような課題があり、どのような条件が必要になるのかを実践的かつ原理的に明らかにすることが期待できる。

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聴覚障害ソーシャルワーカーの養成プログラムに関する研究

研究代表者氏名 原 順子
(ハラ ジュンコ)
所属 人文社会学部
人間福祉学科
健康福祉専攻
職位 教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 17K04282

研究の目的

聴覚障害ソーシャルワークの専門性を担保したソーシャルワーカーを養成するためのプログラムを開発・検証することを目的として、研究をおこなう。

研究代表者はこれまでに、聴覚障害者の特性やさまざまな実態の理解に必要な「ろう者学」の修得の重要性や、聴覚障害ソーシャルワーカーに必要なコンピテンスを抽出し、聴覚障害ソーシャルワークの専門性を構築している。しかし、これらの専門性を修得するプログラム研究は未だなく、社会福祉士、精神保健福祉士といった国家資格のカリキュラムにも含まれていない。そこで海外における聴覚障害ソーシャルワーカーの養成に関する情報収集ならびに第一線で活躍している国内外の聴覚障害ソーシャルワーカーへの調査から、専門性を担保した聴覚障害ソーシャルワーカーの養成プログラムを開発し、またその検証をおこなう。

期待される研究成果

聴覚障害者を対象とする聴覚障害ソーシャルワーカーの養成プログラムが開発されれば、生活上の問題を抱える聴覚障害者への相談支援の質が担保されることになる。特に文化モデルアプローチ、Anti-Oppressive Social Work、Cross-Cultural Social Work、Critical Social Work 理論を修得した聴覚障害ソーシャルワーカーを養成すれば、ストレングス視点での介入ができ、聴覚障害者をエンパワメントすることができると考える。これらの理論がソーシャルワーカーにとって重要であることを検証することで、社会福祉士、精神保健福祉士の養成教育にも汎用することができる。

<具体的な研究成果>
①聴覚障害ソーシャルワーカーの養成プログラムを開発する。
②ソーシャルワーク理論や文化モデルアプローチが、養成プログラムにどのように反映されているのかを明確にする。
③社会福祉士、精神保健福祉士のカリキュラムに加え、聴覚障害ソーシャルワーカーが修得すべきカリキュラム内容を明確にする。

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イギリス現職教育にみる文学の省察的読みの力を育む対話型小中連繋学習指導プログラム

研究代表者氏名 松山 雅子
(マツヤマ マサコ)
所属 人文社会学部
日本学科
職位 教授
研究種目 基盤研究(C) 研究課題番号 18K02620

研究の目的

国語科はことばで考える方法を学ぶ教科である。表現されたものの考え方や思いを対象とする。それ故、プロの過不足ない文体で表現された文学のことばは貴重な学びの根源だが、対話型・協働型の方法論が真に意味を持つのは、対象テクストの質を分析しえた教師の力量があってこそである。

わが国の文学教育の課題の一つが、この教材分析と方法論のかかわりの希薄さにあるとすれば、学習指導要領等に方法論的示唆を得た源泉の一つイギリス国語科教育で、教師が長年にわたり留意してきた両者の必然性に根差した文学の学習指導プログラムを分析・考察することが、実践理論的・方法論的基盤づくりの一助となると考える。

具体的には、初等から中等への連続期(小学校高学年から中学校1年)に焦点を当て、内ロンドンに位置する小・中国語科教科教育センター(Centre for Literacy in Primary Education:CLPE / English & Media Centre:EMC、ともに旧内ロンドン教育局時代から存続し、全国的、国際的影響力をもってきた現職教育研究所)の文学を軸にしたリテラシー教授プロジェクトの内実を事例として検証を試み、教師教育の観点から、先の問いに迫るものとする。

期待される研究成果

初年度2018年度には、当該諸機関との情報交流、わが国の改訂学習指導要領が重視する、ことばによる「見かた・考え方」の学びと文学との関係性の検討、多言語文化社会イギリスの国語教育基盤理論として多大な影響を与えてきG.Kress(2010)Multimodality:A social semiotic approach to contemporary communication. (Routledge)を、『マルチモダリティ-今日のコミュニケーションにせまる社会記号論の試み』(溪水社、2018.12.10)として監訳、刊行した。

以上の研究基盤に基づき、続く2年間では、

  • ①義務教育修了資格試験GCSE「文学」評価対象となる2主流―幻想譚系文学(CLPE開発の読書力向上プロジェクト6年生ファンタジー教材(『肩甲骨は翼のなごり』)からGCSE 定番作品『嵐が丘』へ)とリアリズム系文学(リアリズム児童文学(『おやすみなさい、トムさん』)からGCSE定番作品『高慢と偏見』へ)と連動する学習指導とその教師教育プログラムから、文学教育の発展的展開とその教師教育の内実を、文献調査、当該センター主任とのインタビュー、現職研修参加等から探求を試みる。特に、対話型・参加型学習指導方法と評価の必然性と有効性の考究を通して、現職教育の体系性を明らかにする。
  • ②以上から得た知見をもとに、大阪府下の小中教諭5名の協力のもと、小中連携を視座に入れた文学の授業試案を提案し、パイロット実践を試み、国語科小中一貫カリキュラムに関する新たな問いを見出す示唆を得る。

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